ことのあらまし:
kokokori.hatenablog.com大人組です。
寄稿する際の構成とかを考えて(合同誌の割り当てがひとり4ページだったため)支援会話的なやつをやるにしても1ページ*4ではワンパターンかなということで、ふたり分に2ページ使いました。
以下本文
「では、我らが『カサブランカ』の更なる躍進を願って……乾杯っ!」
「かんぱーい!」
片桐早苗がビールジョッキを掲げると、同席している二人も続く。乾杯とそれに続く静寂は、片桐早苗にとって神聖なひとときだった。
「厳しいレッスンを乗り切った後の一杯は最高ね!」
「リキュールで乗りきゅーる……ビールですけどね。ふふっ」
向かいに座っている高垣楓とは浅からぬ付き合いである。唐突な駄洒落にも慣れたものだが、ゲストはどう感じるだろうか。隣に視線をやると、当の鷹富士茄子はころころと笑っている。この二人が以前から交流を持っていたことに思い当たり、片桐早苗はひとつ息を吐いた。
「ま、その様子なら心配なさそうね」
「早苗さん、心配って?」
鷹富士茄子が無邪気に聞き返してくる。
「ううん、あたしたち、楽しくやれそうだなって」
「そういえば……もう長い間、三人で過ごしたような気がしていました」
「これから、きっとそうなりますよ。楓さんと早苗さんのおかげで、最近はレッスンもいい感じですし」
なんとも呑気な反応である。しかし、片桐早苗も悪い気はしなかった。心置きなく、鷹富士茄子に酒を勧めることができるからだ。
「話は変わるけど、茄子ちゃんってどういうお酒が好きなの? ビール?」
「もちろんです♪ と言いたいところですけど、まだよくわからなくて」
「二十歳の頃は私もそうだったわ。そういうときは、日本酒がおすすめですよ」
高垣楓も積極的にメニューを差し出している。
「乾杯はビールでしたから、次は日本酒を試してみますね。ぽちっとな」
はあ、というため息と共に、鷹富士茄子は猪口を持つ手を下ろした。
「これ、とっても美味しいです。さすがは楓さんのおすすめですね~」
「ここ、一度茄子さんと来たかったんです。気に入ってくれると思って」
「楓ちゃん、みんなで来たときも、誘いたいってずっと言ってたわよ」
「あ、行きつけのお店ってやつですね? なんだか羨ましいです」
こればかりは仕方ない、と二人で笑い合う。
「飲めるようになったばっかりだもんね。これから何度でも来ればいいわ」
「茄子さんはまだ大学生なんですよね」
高垣楓が確認するように言った。
片桐早苗はこのことを知らなかったので、浮かんだ疑問を口に出してみる。
「二足のわらじってやつね。アイドルとの両立は大変なんじゃない?」
「まだまだかけだしの身ですから。幸いお正月には声をかけていただけるので、それはありがたいんですけど」
「そっか……。うん、確かに学業をおろそかにしちゃあいけないわね」
「ただ、やっぱりレッスンの成果をもっと出したい気持ちもあって。三月くらいから、もう次のお正月が楽しみなんです。もういくつ寝ると、って」
笑い話めかした口調だが、そこに織り込まれた気持ちは片桐早苗の共感するところである。かかった魔法も、いずれは解けてしまう。
「肝心の『春舞佳人』も、お正月の活動が主ですしね」
高垣楓も事情を把握しているようで、補足してくれる。
「今回のお話は、私、すごく大きなチャンスだと思います。少しでも多くの人に、私のことを知って、幸せになってもらいたいですから」
「……なるほどね。でも、茄子ちゃんにだけいい格好はさせられないわ」
「チャンスを活かしたいのは、私たちだって同じです。だから――」
「『みんな』で、有名になってやりましょ! ね?」
思いがけず鷹富士茄子から強気な発言が飛び出したが、片桐早苗はむしろ頼もしさを覚えた。高垣楓もそう感じたのか、自ずと呼吸が揃う。
「……はいっ! 私、お二人と同じユニットでよかったです。明日からも、どうぞよろしくお願いします」
気がつけば、乾杯時とは裏腹にどことなく改まった雰囲気が漂っている。
「いえいえ、こちらこそ」
一方、高垣楓はけろりとしたものだ。
その温度差に片桐早苗は思わず苦笑する。なるほど確かに、楽しくやれそうだ、と思った。 (その2に続く)