ことのあらまし:
ということでデジタルリマスタリングします。
別にこれで三週間稼ごうとしているわけでは……
以下本文(編注 オリジナルは紙面スペースの都合上、会話文のあとで改行せず地の文を続けていることがあり、またそれが統一できていなかったため、今回は改行で統一いたします)
「隣に座ってもいいですか?」
だしぬけに、柔らかい声が聞こえた。星輝子は反射的に了承したが、一拍おいて自分のいる場所に思い当たり、訝しんだ。
「ええ、隣です♪」
すると声は星輝子を真似てか、隣にある事務机の下の空間に収まったようだった。こういった来客は珍しく、身を縮めて潜り込む様子を想像すると、星輝子は思わず口元が緩んでしまう。
「茄子さん、きょうは、どうしたんだ? 私に何か用事でも……?」
星輝子が水を向けると、鷹富士茄子は得意げに答えた。
「はい、輝子ちゃんとおしゃべりするっていう、重大ミッションが」
つまり、これといった用件はないのだな、と星輝子は察した。一方で、鷹富士茄子とは今回ユニットを組むことになった間柄であるし、親睦を深めに来てくれたことを嬉しくも思った。
「まあ、あんまり難しく考えずに、一緒の時間を楽しめたらなって。もちろん、輝子ちゃんがいいなら、ですけど」
「そういうことなら、喜んで……。何の話にしようか?」
「うーん……やっぱり、まずはお互いの話なんてどうですか」
星輝子にとっても、それはうってつけの話題だった。今日の鷹富士茄子は顔合わせの際の印象や、何度か行った合同レッスンでの姿とまるで雰囲気が異なり、若干の戸惑いすら覚えていたからだ。
「だったら、茄子さんの話から聞きたい……かな。今まで、こんなに……その、思い切りのいい人だとは、思ってなかったし」
「あら、ばれてましたか」
鷹富士茄子はあっけらかんと認める。
「フヒ、ばればれ……。でも、ホントにいい機会だと、思うぞ」
同時に、星輝子は自分自身のことが気になっている。先ほどから改まりつつある鷹富士茄子への印象。それは今まで以上に「日当たりが良すぎる」、つまり、星輝子が苦手とする類のものであるはずだ。しかし今は不思議と、隣から聞こえる声との時間を肩肘張らずに楽しむことができそうだった。 (その2に続く)