ことのあらまし:
琴歌お嬢様編。以下本文
ダンスレッスンの合間に、鷹富士茄子が声をかけてきた。息を切らしながら話すのは、正直、躊躇われたが、鷹富士茄子の表情は「ゆっくりでいいですよ」と言っているように見える。気が利いているのかいないのか、とにかく西園寺琴歌は充分に間を取り、呼吸を落ち着かせてから応えた。
「個人でのレッスンは少し慣れてきたのですけれど、このように合同で行うものは、また勝手が違いますわね」
「なるほど、確かに合同レッスンって、なんだか緊張しちゃいます」
「ええ。つい、皆さんが気になってしまって」
相槌を打ちながら、西園寺琴歌は合同レッスンで今ひとつ調子が出ない理由を考えている。具体的には、目の前にいる鷹富士茄子と自分との違いをだ。
「そうですか……。やっぱりまだ距離があるのかな、お互いに」
その言葉に心の中を言い当てられたようで、西園寺琴歌は思わず顔を上げた。しかし、鷹富士茄子は鷹富士茄子で思い当たる節があるのか、こちらの動きには気づいていない。西園寺琴歌はえいと決心をつけて、まとまりつつあった考えを話すことにした。
「鷹富士さんのおっしゃる通りですわ。今回、ユニットのお話を頂いてから……私は皆さんに対して、見栄を張るようなところがあったのでしょう」
「同じユニットでも、ある意味ではライバル同士ですもんね。無理に仲良くする必要はないと思います」
私はやぶさかじゃないですけどね、と付け加えて、鷹富士茄子は微笑んだ。
「けれども、ある程度は心を開いてゆくことも大切だと思いますの。その方が、そう、ユニットのためにもなりますし。私としても……」
にわかに照れ臭く感じて、後半はほとんど言葉にならなかった。
「うふふ……。きょうは琴歌ちゃんの珍しい表情が見られて、なんだかラッキーです♪」
鷹富士茄子にはしっかりと聞こえていたようだ。頬と耳に体中の血が集まるのがわかる。
「も、もう! 私も、鷹富士さんがそんな意地悪を言う人だとは知りませんでしたわ!」
西園寺琴歌はたまらず抗議するが、それもまた「珍しい表情」である。
奇妙な間があった。そして、鷹富士茄子と顔を見合わせ、同時に吹き出した。 (その2に続く)