心の垢離

さしずめ文章の家庭菜園のようなもの。

【夏・延長戦】ひとりぼっち東京#2.2024

▲また新幹線で行きました

 

 去る9月22日、劇場総集編のスタッフ舞台挨拶(↓)に出かけた。

www.animatetimes.com

 奇しくも会場は舞台ぼっちと同じ歌舞伎町タワー(のお高めな映画館)だ。

 この件はどちらかといえば行くまでの話がいろいろあって、まずチケットが先着販売だったことに文句言いたかったよね。なんつってもヨーイドンの時間が0時ちょうどだったので、普段ならそんな時間はもちろん寝ている。しかし間がいいんだか悪いんだか、クソ残業で遅くなってなんやかんやしているうちに日付をまたいでしまい、ふと気がつけば0時3分だった。せっかくだからと見に行くと、夜の部のA席が少し残っていた(昼の部のS席A席、夜の部のS席は3分で埋まってしまった模様)ので勢いで申し込む。前編後編をいっぺんに観られるのも楽しそうだが、終わりが21時ごろなので日帰りすることができない。たぶんそれで席が残っていたのだろうけど、まあ有給も使ってしまいたいのでちょうどよかった。

 アニメの制作に関わったスタッフさん方にお会いするのは(劇場総集編の)オーディオコメンタリー以来となった。というか本来ならそんな機会もないわけで、私が魅了された世界を作り上げた人々がまさにその話をする場なんてものは貴重と言うほかない。そんなわけで、おじさんが6人並ぶ地味な絵面ながら30分あっという間であった。お話の内容は感動で朦朧としていた者がうろ覚えでなにか言うより上の記事を見てもらうほうが間違いがないだろう。私はといえば、やっぱり絵描けるのってすげえな……とアホみたいな感想に終始していた。いやほんと、楽しかったです。

 

▲というわけで、終わったらお泊りをしなければならない。今回かなり急遽お世話になったのはゲストハウス品川宿さんだ

 

▲お部屋の模様

 

 率直に言ってゲストハウスという形態は初めてで、宿のスタッフさんがかなり話しかけてくるのには少し戸惑った……が、コミュ障陰キャ特有の初対面だけはなんとかなるやつを発揮して場を乗り切った。ぼっちをご存知とのことだったので、今回の目的から舞台の話、泊まりに来る人の傾向やなぜか私のお仕事の話、そしてまだ営業している飲食店の情報など。特に最後のは土地勘もないし、22時頃だったのでコンビニくらいしか思いつかず助かった。

 

▲おすすめの中華屋、一品楼さん。五目チャーハンと、イカと季節野菜の唐辛子炒め。とてもおいしかったです

 

 戻ってくるとシャワー室の順番待ち概念にやや面食らったが、まあそりゃそうだよなという感じ。翌日の動きを確認し、寝る。けっこう建物内外の物音が夜中まであり、率直に言ってぐっすりとはいかなかった。

 23日だ。元々帰るだけの日だったので目的は果たした状態なんだけど、これもせっかくだからと計画していたことが2つあった。ひとつはきらら展、もうひとつは結束ロック8。

 

kiraraten.jp

www.puniket.com▲(もう「9」のページになっている。余談ながらこういったイベントの企画運営に携わる方もすごいよな。大感謝)

 

▲まずきらら展。移動のことを考えると新宿で宿を取った方がよかったのだが私が探した感じだと急には取れなさそうだったので……というか探し方ももう少し丁寧にすればよかった気がする

 

 ともかく早めに起きて宿の隣のコンビニで朝食を調達。チェックアウトは鍵を玄関のボックスに入れるだけ。来るときと比べずいぶんアッサリしているが、旅とはそんなもんかもしれない。一期一会。

 8時頃に池袋駅に到着。サンシャインシティまで少し歩き……うんざりすることにもう100人くらい並んでいる。虹夏ちゃんコラボヘッドホンで結束バンドさんの曲を聴きながら耐え忍ぶ。自分で蒔いた種とはいえ一人でじっと並ぶ行為は本当に最低に近く、今後の人生でもできれば避けたいなと思いを新たにした。

 

▲10時になった。列がのろのろと進んでいく。ぼっち・ざ・ろっく! の民だけじゃないだろうから当たり前だけど、それにしても私みたいな人がうじゃうじゃいることだよ

 

▲展示の様子(写真撮れるところだけ)。実のところ他の作品をほとんど知らないまま、後述のカバー曲目当てに行ったのだが、展示会の趣旨である夢、希望、勇気、ときめきが満ちた空間であることが肌から伝わってきて予想以上に楽しかった。物販では蓋つきマグカップを買いました

 

▲今回の大目的のひとつ、結束バンドさんの歌ってみたのやつ(https://kiraraten.jp/voiceguide.html)。地の文でも「山田」呼びされているあたり、さすがだ

 

 これだけの導入でもなんだか1本お話が書けそうだがそれは置いておいて、貴重極まりない音源を聴いていく。ヘッドホンをわざわざ持ってきたのはこのための布石でもあったのだ。といっても例によって原曲をほとんど知らないわけで、まっさらなんだか贔屓目で歪みまくってるんだか自分でもわからないけど、とにかく虹夏ちゃんの曲が良かったと思いました。

 それにしてもその場限りなのは惜しい。惜しすぎる。まあ権利関係とかいろいろあるんだろうか。後日シレッと配信とか……ありませんかね……

 

▲移動時間を含めると食事しなくても間に合わないくらいだったのだが、お腹空いたので(あと並ばず入れたので)開き直って食べる。これはサンシャインシティのレストラン街、JASMINE THAIさんのガパオライスのセット

 

▲というわけで最後の目的地、結束ロック8だ(大遅刻)

 

 改めて言うことでもないが、現地で同人誌を買うのはこの日が初めてだった。こんな風に遠方だからというのもあるし、大方のご本は通販でも手に入るからだ。しかし今回は現に会場近くに来ていること、またpixivで書店委託なしのサークル参加情報を何件か聞いていたことが大きく、極めてイレギュラーな機会が実現した。

 いわゆるオンリーイベントではなく、他の作品の島に混じってという状況ではあるが、なんだろう、ここでも現地独特の空気が感じられた気がする。そしてまあ財布からお金が出ていくこと。こう、ふらふら~とさせる魔力がある。

 目的のご本はだいたい買えてそれは良かったのだが、それよりも印象深かったのは交流の要素だ。たぶん狭い界隈なのだろう、サークルさん同士やお客さんもまじえたやりとりの様子をよく見かけた。その中にあって私は何者でもなかったため、疎外感……と表現するのも変なんだけど、やはり少し寂しかったのかもしれない。自己満足でしかないとはいえ私もそういった活動に片足を突っ込んでいる以上、自分の好きを誰かと共有したい気持ちは否定できない。別に有名になりたいとかではない(本当にない)のだけど、そのへんはまあいろいろあるのだ。私にも今後、そういった機会が訪れるのだろうか? それはわからないが、今回は帰り道でもずっとそのことを考えていた。

 

▲そんなわけで、夏が終わっていく。普段の引きこもりぶりからは考えられない、新幹線乗りまくりな夏休みだった

10月は10月でぼっち展の大阪日程があるのでどこかのタイミングで行きたいね。ソニーストアのやつ(↓)

 

とか、タワレコのコラボカフェ

tower.jp

もある。全部回収するかはこれから決めます。

終わり。

 

ほのぼのぼ虹生活(その1)

◆#1

 休日の朝。

 待ち望んでいたインターホンが鳴り、伊地知虹夏は逸る気持ちのままに扉を開けた。

 

「やっほー、ぼっちちゃん! いらっしゃい!」

「あっ、お、おはようございます。虹夏ちゃん」

 

 後藤ひとりはお辞儀の姿勢から頭を上げると、目を細めて言った。

 

「きょうも素敵です」

「ぼ、ぼっちちゃんってば! でもありがとね、私も会えて嬉しいよ。さ、上がって上がって」

「えへへ、お邪魔します。店長さ……あっ、星歌さんは」

「夜まで出かけてるよ。まったく、気を遣わなくてもいいって言ったんだけどね」

「そ、そうなんですね……ちょっと残念です」

 

 虹夏がひとりと交際を始めてしばらく経つ。

 以前からバンド活動を通じて仲が良かったこともあり、二人を指す関係の名が変わっても、その中身はそれほど変化を見せていない。虹夏としては「もう少し進展してもよい頃合いではないか」というもどかしさもないわけではなかったが、会うたびににこにこと幸せそうなひとりを見ていると、それ以上を望む気持ちはいつもどこかへ行ってしまうのだった。

 人混みが苦手で引っ込み思案なひとりの性格も相まって、新たな日常となった二人の関係は年相応未満、一般的にはオママゴトめいて微笑ましく見られかねないものだと虹夏は理解している。だけど、そうした尺度で計るのが重要ではないということも同時によく知っていた。そしてその考えをひとりにも伝えるようにしていたのだが、この日も彼女の自己肯定感はなかなかの強情ぶりだ。


「うう……いつもいつも、私のわがままを聞いてもらってすみません。虹夏ちゃんとなら、おでかけも平気って言えたら良かったんですけど」

「大丈夫! おうちデートも楽しいよ」

 

 虹夏はひとりと話すとき、率直な物言いを心がけるようにしていた。ひとりの向けてくれる言葉や感情が、いつも衒いなくまっすぐだからだ。

 したがって、先の発言も気を遣ったわけではない。進展が多少遅かろうと、これまでに過ごした時間は裏切らないと思った。

 

「ほ、本当ですか? キスもまだなこととか、気にしてたりしませんか」

「それはまあ……気にしてないことはないけど! でも『こうあるべきだ』とか、変に意識することないって。私、これでもしたいことは言葉にしてるつもりだし、ぼっちちゃんだって同じでしょ」

「あっはい。で、でも、言いたいことがちゃんと言葉になるのは、虹夏ちゃんが待ってくれて、しっかり聞いてくれるからですよ」

「んんっ……! と、とにかく、それくらいじゃわがままにはならないから安心してね。むしろ、いろいろ伝えてくれた方が私は嬉しいな」

「わかりました。いつもありがとう、虹夏ちゃん」

「うん、よろしい!」

 

 ひとりを部屋に残して、飲み物を取りに台所へ向かう。別れ際に見せてくれたふにゃっとした笑顔がまぶたの裏に焼き付いて、気を抜くとすぐに顔全体が緩んでしまいそうになる。バンドメンバーとして関わる時と似ているけれど明確に違う、虹夏の前でしか見せない表情だ。

 結局のところ、二人して浮かれまくっているのだった。

 

◆#2

 昼食まで少し時間があるので近況を交換する。虹夏が進学しても、相変わらずライブハウスのアルバイトやスタジオ練習で顔を合わせる機会は多いし、そうでなくとも日ごろメッセージアプリや通話で連絡を取っているのだが、お互いを取り巻く生活やそれぞれの考え方について話すのはとても楽しい。コミュニケーション弱者を標榜するひとりの意外な聞き上手も手伝い、ただ言葉を交わすだけのデートでもあまり退屈することはなかった。

 

「あっそういえば、前期の試験、結果出たんですよね」

「うん、おかげさまでフル単!」

「虹夏ちゃん、さすがです……!」

「えっへへ、ありがと! まあ大槻さんとも協力したしね」

 

 大槻ヨヨコ。ロックフェス「未確認ライオット」の出場権を賭けて結束バンドと争ったSIDEROSのメンバー。当時は色々あったが、虹夏とは同じ大学の友人と言って差し支えなかった。

 

「よく出会うって言ってましたもんね」

「だいぶ講義被ってるんだよ。後期も」

「興味あることが似てるんでしょうか」

「そうかも。何回か飲み会もいっしょになったし、そこでたくさん話して……最初の印象よりも気が合う感じはするかな」

「の、飲み会!」

 

 ひとりがのけぞった。身近に悪い例がいるせいだろう。虹夏は苦笑して続ける。

 

「別にお酒は飲んでないし、一次会で帰るようにしてるから」

「うう、虹夏ちゃんに限ってそんなことない……とは思うんですけど」

「また『ウェイ系の陽キャにお持ち帰りされたら』って話?」

 

 伏し目がちに頷く。

 虹夏はひとりの意図を想像する。話す時間を取りたいこともあって早めに切り上げている、ということは以前より伝えているので、単純に寂しかったり、嫉妬したりしている様子ではなさそうだ。そうすると飲み会の雰囲気を感じてもらうのが一番だろうか。でも同席させるわけにはいかないし、と考えたところで、思いつくことがあった。

 

「そうだ。今度の誕生日、お酒を飲むとどんな感じになるのか、家で試してみるかなあ」

「あっ、いいと思います」

「悪いお酒には気をつけなきゃね。その時はぼっちちゃんもいてくれる?」

「はい、もちろん」

 

 仮説が当たったようだ。まだ半年以上先だが、ささやかなホームパーティの模様を想像し、二人で案を出し合った。

 

 話しているうちに空腹も仕上がり、虹夏たちは台所で昼食の準備をする。献立はひとりの希望を事前に出してもらっていた。今回は中華そばと野菜炒めだ。

 手分けしてキャベツを刻んだり丼を温めたりする傍ら、虹夏はひとりの家事技能の上達を実感する。食事を作るという、ただそれだけのことなのだが、お互いに目標や手順を共有できているような、言ってしまえば通じ合っているような気がした。

 

「「いただきます」」

 

 協力の甲斐あって、スムーズに食卓が整った。虹夏は向かい合ったひとりに話を振る。

 

「ね、ぼっちちゃんのことも聞かせて!」

「あっ、学校は相変わらず辞めたいです。でも喜多ちゃんはいつも優しいですし、最近はクラスのみんなも、少しは」

「ふふ、そっか……なんだかんだ順調そうだね。そういえばつぐちゃん、元気にしてるかな」

 

 結束バンドのメンバーである喜多郁代と、その友人の佐々木次子。ひとりとは2年生のクラスが同じだったことから付き合いが続いていた。

 

「いつも遊ばれてますね。まあ構ってもらえるので私は……って、いつの間にかけっこう仲良しです?」

「たまにライブハウス来てくれるからね。ぼっちちゃーん、期待されてるんじゃない?」

「あっ頑張ります……」

 

 息継ぎをするように、麺を口に運ぶ。

 

「ライブハウスといえば、ふたりが行きたいって聞かなくて」

「順調にお姉ちゃんっ子だねえ」

「ですかね。でも夜は眠いからまだ無理かも、って自分で言ってます」

 

 後藤ふたりはひとりの妹だ。虹夏も何度か会ったことがあり、その時の印象と照らせばこれも「いかにも」な発言で、思わず笑顔になってしまう。

 

「……なんだか初ライブのこと思い出しませんか」

「そうだね。ぼっちちゃん、カッコよかったなあ」

「!? すすすすみません! そんなつもりでは」

「ううん、いいんだよ。ただそう思ったんだもん」

「あ、ありがとうございます。あの、私……虹夏ちゃんの、皆さんの期待に応えたいです。そうじゃない時も、多々、ありますけど……」

「こちらこそ! これからも、いっしょに頑張ろうね」

 

◆#3

「さあ、午後はどうしよっか」

「あっ、虹夏ちゃんのお部屋でゆっくりしたいです」

「そう? わかった」

 

 そうしてまた部屋に戻り、めいめいに腰かけている。言い出した割に、ひとりはいかにも所在なげだ。

 

「あっあの、虹夏ちゃん! もう少し近くに行ってもいいでしょうか!」

「唐突か! でも……うん。いいよ、ぼっちちゃんなら。いつでも」

「ありがとうございますっ。で、では」

 

 やけに力が入っているだけあり、ひとりはかなり頑張ったようだ。虹夏の右隣に座り直すと、お互いの肩が触れ合う格好になる。

 

「えっと、ぼっちちゃん? これは……」

「い、嫌でしたか」

「ううん、そんなことない。ただ、その……大丈夫なの」

「きょう、ここに来る前からイメージトレーニングしてたんです。いい加減、虹夏ちゃんをお待たせするのも申し訳ない……ってそうじゃなくて、いやそれもありますけど。ええと、とにかく……私もそうなりたいって思ったので」

 

 虹夏は首から上が一気に熱くなるのを感じた。内心が筒抜けだったばかりか、先に言わせてしまうとは。

 元々、あまり距離を縮めるとひとりの心臓が保たないというのっぴきならない事情があったのだが、この様子だと克服したと考えてよいのだろうか。思わず飛躍しそうになる妄想を飲み込み、虹夏は慎重に言葉を選んだ。

 

「そ、そっかそっか! えっとね、そう言ってくれて私も嬉しいよ。お察しのとおり、ぼっちちゃんのこと、近くに感じたいと思ってたから。じゃあ、あの……手でも繋いでみる?」

 

 無言でコクコクと頷くひとり。どうやらこのあたりが限界のようだ。

 先走らなくてよかった、と内心で肩を撫で下ろしながら、虹夏は注意深くひとりの手を取った。

 

「あっ」

「ど、どうかな。ぼっちちゃん」

「虹夏ちゃんの手、温かいです」

「えへへ、なんか照れくさいね」

「やっとここまで来られました」

「ぼっちちゃん、頑張ったねえ」

 

 二人はしばらくそうしていた。

 どのくらい経っただろう。虹夏がひとりの方へ顔を向け、そっと話しかける。

 

「あのね。私、少し考えてることがあって。私の、私たちのこと」

「はい、聞かせてください」

「お付き合いを始めてからの、こ、恋人としてのぼっちちゃんって、私の想像以上でさ。それこそ完璧に近いなって」

 

 聞き慣れない言葉に驚いたひとりが、そんなことないです、と言いかけ、留まる。虹夏を横目に見つめて、続きを待っている。

 

「本心だよ。いつもたくさん『好き』って伝えてくれて、まっすぐ気持ちを届けてくれることもそうだし、行動でも……ほら、私の嫌がることは絶対しないでしょ。それって言うほど簡単じゃなくて、私のことをよく知らないとできないと思うんだよね」

「それは……そうですね。虹夏ちゃんに嫌われたら、きっと生きていけませんから」

「嫌わないよ〜、こんなにいい子なんだもん。それでね、私はどうだろうって振り返ると……たぶん考えすぎなんだけど、でも同時にね……自分で思うより口下手だったかも。もしかしたら、ぼっちちゃんに応えられてないんじゃないかって」

「……私、虹夏ちゃんの気持ちを疑ったことなんて、一度もないですよ」

 

 ひとりがつっかえつっかえ、懸命に言葉を組み立てる。

 

「私にかけてくれる声、向けてくれる笑顔が優しくて……私のつたない話も、いつも真剣に聞いてくれますし。あとごはんも、とってもおいしいですし。そういう積み重ねが嬉しくて、幸せで、仕方ないんです。ああ、虹夏ちゃん、私のこと尊重してくれてるんだなって……好きになってよかったなって、そう思わない日はないくらいです! むしろ私こそ、そのお礼をどう返そうかウズウズしてるっていうか、まだまだ応え足りないかなって思ってたんですけど……」

「あ、ありがとう。正直照れくさいなんてもんじゃないけど、ぼっちちゃんの気持ちが聞けてよかったかも。……ひゃー、そんなふうに思ってくれてたんだ」

 

 虹夏は空いた左手でぱたぱたと顔を扇ぐ。

 

「つ、つまり……私たちってお互いのことを考えすぎて、ちょっと視野が狭くなってたってこと?」

「気持ちとお返しがぐるぐる回って……なんだか面白いですね」

「あはは、本当にね。よーし! せっかくぼっちちゃんが好きになってくれたんだし、私も自分のこと、もう少し信じてみようかな」

「あっ、それがいいと思います。いくら虹夏ちゃんでも、私の大切な人を悪く言うのは……その、悲しいので」

「う、うん。気をつけます」

「えっと、それで……ですね。気持ちが伝わってくるって話をしたばっかりで恐縮なんですけど。じゅ、重要なことは直接聞けるとありがたいっていうか……格別っていうか別腹っていうか……」

 

 急に歯切れが悪くなり、ちらちらと虹夏を伺い始めるひとり。その小動物然とした姿は「からかってください」と言わんばかりで、悪い心が芽生えてしまうのも無理からぬことだった。ダメだよ〜、ぼっちちゃん。そんな隙を見せちゃったら。

 

「重要なことってなに?」

「で、ですから! 虹夏ちゃんが気にしていた、口下手って部分も少しはあるというか……あ、ほら! 私は今も何度か言ったと思うんですけど、虹夏ちゃんからは、まだ」

「えー? なんだろう」

 

 虹夏は白を切った。二度目はさすがに少し声が震えてしまい、それを訝しんだひとりと目が合う。もう限界だった。

 

「に、虹夏ちゃん!」

「あっははは! ごめ、ごめんねぼっちちゃん! あんまり回りくどいから、欲張りなんだか謙虚なんだか、っくく……わかんなかったからさ」

「いじわるな虹夏ちゃんなんか知りません」

 

 そっぽを向くひとり。表情は取り付く島もないが、繋いだままの手は控えめに握り返してきて、虹夏の言葉を待っているようだ。

 

「ぼっちちゃん。気持ちを伝えるの、本当に上手になったね。すごいよ。さっきの話も、私ドキドキしちゃった」

「……」

「何もかもわかり合う必要はないと思うけどさ、お互いの価値観っていうか……重ならない部分も含めて、私たち、もっともっと仲良くなれるんじゃないかな」

「……」

「私はぼっちちゃんといると楽しいし、そういう時間をこれからも続けたい。月並みだけど……ぼっちちゃんのこと、大好きだからね」

「……」

「き、聞いてる? けっこう恥ずかしかったんだけど⸺って、ああ! また溶けてるし!」

 

◆#4

「ご、ご迷惑をおかけしましたァッ! 本当にすみません、言わせておいて」

「大丈夫だよ。また何回でも言ってあげる……私も、その、からかっちゃって」

「あっいえ、それは全然」

 

 ひとりが融解してから2時間余。

 冷やして固めて成型して、といった補修作業の末に復活したひとりは帰り支度を済ませ、玄関で虹夏と向かい合っていた。

 

「じゃあまたあした、スタ練でね」

「はい、また」

 

 扉に手をかけるひとり。

 開いた隙間から夕日が差し込んだ時、その背中がなんだか手の届かないものになりそうで、それは実際にそうなのだが、ともかく自分でも説明のつかない別れがたさが衝動となって虹夏の体を貫いた。

 

「ぼっちちゃん!」

「え」

 

 ひとりが振り返ると、虹夏は両手を広げ、しきりに何かを訴えかけている。

 

「虹夏ちゃん?」

「ん」

 

 先ほどの意趣返しだろうか。ただ手振りを続ける虹夏に、ひとりは思わず吹き出した。

 

「もう、虹夏ちゃん。大事なことは直接お願いしますって言ったじゃないですか」

「んふふ」

 

 ひとりが歩み寄り、虹夏の背中に手を回す。

 それから少しの間、世界にはただ二人だけだった。

 

「引き止めてごめんね。もう大丈夫」

「お別れする時って、やっぱりちょっと寂しいですもんね」

「そうだねえ。今度は晩ごはんも食べにおいでよ」

「わ、楽しみです」

「またメニュー考えとくね」

 

 手を振る二人を扉が隔ててゆく。夕日の輝きとともに、ひとりの姿は遂に見えなくなった。

 夜の足音が近づく中、虹夏は小さく息をつく。交わした言葉や声、繋いだ手の感触、別れ際にすぐそばで感じた匂い。そうしたものが、まだ彼女の中心で渦を巻いていた。

【舞台ぼっち】ひとりぼっち東京.2024

▲また行きました。とても楽しかった(15日昼公演)

 人物名の表記について、諸説あろうが役の名前で統一することにする。また記事の性質上、ネタバレというか公演の内容についてガッツリ触れるのでよろしく。

 

前回の模様:

 

kokokori.hatenablog.com

続きを読む

【ネタ出し】後藤ひとり「切り取って、大切なこの時を」(仮)

できごと

ひとり、虹夏に告白→虹夏、保留のち受諾→虹夏が同棲を持ちかけ、内定←今ここ

 

課題

視点をどうするか考える

 

今回のお話は何度目かわからないおうちデート

 

「うう……いつもいつも、私のわがままを聞いてもらってすみません。虹夏ちゃんとなら、おでかけも楽しいってわかってるんですけど」

「大丈夫! 私もこうするのがいいと思って、それでここにいるんだから」

「ほ、本当ですか? お付き合いしてしばらく経つのにキスもまだなこととか、気にしてたりしませんか……?」

「それは……気にしてるけど! でも『こうするべきだ』とか、変に意識することないよ。私もしたいことは言うようにしてるし、今だってほら、ぼっちちゃんも同じでしょ」

「は、はい。あっでも、言いたいことがちゃんと言葉になるのは、虹夏ちゃんが待ってくれて、ちゃんと聞いてくれるからですよ」

「んんっ……! と、とにかく。それくらいじゃわがままにはならないから安心してね。むしろその調子でいろいろ伝えてくれた方が、私は嬉しいな」

「わかりました。いつもありがとう、虹夏ちゃん」

「うん、よろしい!」

 

①大学の話

飲み会に行っても(未成年だし)ソフトドリンク・一次会で必ず帰ってくる

「今度の誕生日、どのくらい飲めるのか試してみるかなあ」

「お姉さんのこと、悪く言うわけじゃないですけど……」

「悪いお酒には気をつけなきゃね。その時はぼっちちゃんもいてくれる?」

「はい、もちろん」

 

②ヨヨコと仲がいい

「やたら講義かぶってるんだよね」

「興味あることが似てるんでしょうか」

「わかんないけど、私は自分で考えて取ったから、やっぱりたまたまかな」

「虹夏ちゃんのお話だと、高校の感じとは少し違ってて楽しそうです」

「楽しいよ~? ぼっちちゃんも来ればいいのに」

「いじわるな虹夏ちゃんなんて知りません」

「あはは、ごめんごめん!」

 

③ぼっちちゃんのことも聞かせて!

「学校はどう?」

「あ、相変わらず辞めたいです。でも喜多ちゃんはいつも優しいですし、クラスのみんなも、少しは」

「おお、すごい進歩だ! そういえばつぐちゃん(次子)、元気にしてるかな」

「いつも遊ばれてますね。まあ構ってもらえるので私は……って、いつの間にけっこう仲良しです?」

「たまにライブハウス来てくれるからねー。ぼっちちゃーん、期待されてるんじゃない?」

「あっ頑張ります……」

 

④ふたりと台風

「ライブハウスといえば、ふたりが行きたいって聞かなくて」

「順調にお姉ちゃんっ子だねえ」

「ですかね。でも夜が早いからまだ無理かも、って自分で言ってます」

「(笑)」

「……なんだか初ライブのこと思い出しませんか」

「今くらいの時期だったよね」

 

このあとは昼食→ギターに合わせて歌う例のやつ→いっしょに買い出し→夕食後解散 といちおう流れを考えたが、ここまででも尺的には1本分ありそうな感じ?

オチをつけられるなら一旦切ってもよいと思う(改めて考えます)