心の垢離

さしずめ文章の家庭菜園のようなもの。

 伊地知虹夏が、後藤ひとりの告白を受け入れてしばらく経つ。

 以前から仲が良かったこともあり、二人を指す関係の名が変わっても、その中身はほとんど変化を見せていない。虹夏としては「もう少し進展してもよい頃合いではないか」というもどかしさがないわけではなかったが、会うたびににこにこと幸せそうなひとりの様子を見ていると、それ以上を望む気持ちはいつもどこかへ行ってしまうのだった。

 そんなわけで、新たな日常となった二人のデートはあまり年相応ではない、一般的には微笑ましい(下手をすれば失笑を買ってしまうくらいの)ものだと虹夏は理解していた。だけど、そうした尺度で関係を計るのがそれほど重要でないということも同時によく知っていた。そしてその考えをひとりに伝えるようにもしていたのだが、この日も彼女の自己肯定感はなかなかの強敵だ。


「うう……いつもいつも、私のわがままを聞いてもらってすみません。虹夏ちゃんとなら、おでかけも楽しいってわかってるんですけど」

「大丈夫! 私もこうするのがいいと思って、それでここにいるんだから」

 

 虹夏はひとりと話すとき、率直な物言いを心がけるようにしていた。ひとりの向けてくれる言葉や感情が、いつも衒いなくまっすぐだからだ。

 現に今も、口にしたのは偽りない本心だ。関係の進展が遅かろうと、それまでに過ごした時間は裏切らない。

 

「ほ、本当ですか? お付き合いしてしばらく経つのにキスもまだなこととか、気にしてたりしませんか……?」

「それは……気にしてるけど! でも『こうするべきだ』とか、変に意識することないよ。私もしたいことは言うようにしてるし、今だってほら、ぼっちちゃんも同じでしょ」

「は、はい。あっでも、言いたいことがちゃんと言葉になるのは、虹夏ちゃんが待ってくれて、ちゃんと聞いてくれるからですよ」

「んんっ……! と、とにかく。それくらいじゃわがままにはならないから安心してね。むしろその調子でいろいろ伝えてくれた方が、私は嬉しいな」

「わかりました。いつもありがとう、虹夏ちゃん」

「うん、よろしい!」

 


①大学の話

飲み会に行っても(未成年だし)ソフトドリンク・一次会で必ず帰ってくる

「今度の誕生日、どのくらい飲めるのか試してみるかなあ」

「お姉さんのこと、悪く言うわけじゃないですけど……」

「悪いお酒には気をつけなきゃね。その時はぼっちちゃんもいてくれる?」

「はい、もちろん」

 


②ヨヨコと仲がいい

「やたら講義かぶってるんだよね」

「興味あることが似てるんでしょうか」

「わかんないけど、私は自分で考えて取ったから、やっぱりたまたまかな」

「虹夏ちゃんのお話だと、高校の感じとは少し違ってて楽しそうです」

「楽しいよ~? ぼっちちゃんも来ればいいのに」

「いじわるな虹夏ちゃんなんて知りません」

「あはは、ごめんごめん!」

 


③ぼっちちゃんのことも聞かせて!

「学校はどう?」

「あ、相変わらず辞めたいです。でも喜多ちゃんはいつも優しいですし、クラスのみんなも、少しは」

「おお、すごい進歩だ! そういえばつぐちゃん(次子)、元気にしてるかな」

「いつも遊ばれてますね。まあ構ってもらえるので私は……って、いつの間にけっこう仲良しです?」

「たまにライブハウス来てくれるからねー。ぼっちちゃーん、期待されてるんじゃない?」

「あっ頑張ります……」

 


④ふたりと台風

「ライブハウスといえば、ふたりが行きたいって聞かなくて」

「順調にお姉ちゃんっ子だねえ」

「ですかね。でも夜が早いからまだ無理かも、って自分で言ってます」

「(笑)」

「……なんだか初ライブのこと思い出しませんか」

「今くらいの時期だったよね」

 


このあとは昼食→ギターに合わせて歌う例のやつ→いっしょに買い出し→夕食後解散 といちおう流れを考えたが、ここまででも尺的には1本分ありそうな感じ?

 

唐揚げ、と思いきや季節の魚が食べたいひとり

並んで台所に立つ ひとりの調理スキルもなかなかの向上

別れ際 (ひとりの気持ちを察して)ハグを提案する虹夏

 

恋人としては特に、ひとりの振る舞いは完璧に近い

気持ちをよく伝えてくれるし、虹夏の嫌がることは絶対しない

虹夏はどうか? 受け取るだけになってはいないか

ひとりから見た虹夏は、よく構ってくれるし向けてくれる表情が柔らかくて好き

→特に意識してそうしているわけでは……

→そうした振る舞いが自然にできること自体が虹夏のすごいところ

 

虹夏との関係は奇跡的にうまくいった?

「ぼっちちゃんが不安なら、私が太鼓判を押してあげる! でもそれだけじゃないよね?」

虹夏としては、この成功体験を活かして人間関係の輪を広げていってほしい・二人の関係ももっと深めていきたい

「わ、私としては今がありえないくらい幸せだと思っていたので……それ以上なんて考えもしませんでした。でも、そっか……ここが終わりじゃないんですね」

「うんうん」

 

オチをつけられるなら一旦切ってもよいと思う(改めて考えます)