心の垢離

さしずめ文章の家庭菜園のようなもの。

【企画記事】「夜に駆ける」英語版の歌詞でお勉強

私です。

標記のとおり、有名な曲の英語版が公開されました。

www.youtube.comしかしやけに日本語っぽく聞こえるこの歌詞、実際のところどんな感じなのか? よもや語感優先のあまり詩の意味がブッ飛んではいないか?

というクッソおせっかいな検証が今回の趣旨です。

 

両バージョンの音源のみならず歌詞まで公開しちゃう太っ腹ぶりに、こちらも可能な限り敬意を。

 

逐語訳はしません。そんなのめちゃくちゃ恥ずかしいので……

 

 

『夜に駆ける』

沈むように溶けてゆくように

二人だけの空が広がる夜に

 

まず歌い出しから。英語版はこうだ:

 

Into The Night

Seize a move, you're on me, falling, and we were dissolving

You and me, skies above and wide, it brings on the true night on me

 

(訳注)seize:掴む dissolve:溶かす bring on~:~をもたらす、連れてくる

 

予想以上に日本語版と符合している。

2行目では「この広い空の下」「本当の夜」と二人の特別な関係を示唆する要素が増したと思う。

 "Seize a move, you're on me"は正直音を合わせに行った感が否めないが、出だしをパッと聞いて「日本語!?」と感じるキャッチーさを狙ったものだろうか。

 

「さよなら」だけだった

その一言で全てが分かった

日が沈み出した空と君の姿

フェンス越しに重なっていた

 

Aメロ。

 

All I could feel was a “goodbye” 

Those only words you wrote, it's plenty to understand ya

The sun is going down, the sky behind and visions of you would stand

Overlapping with you and the fence beyond

 

plenty:必要十分の

 

ここは本当にそのまま。

強いていえば「さよなら」は「君」の書き置きから「僕」がそういうメッセージを受け取った、という具合に少し描写が詳しくなっているくらいか。

 

初めて会った日から

僕の心の全てを奪った

どこか儚い空気を纏う君は

寂しい目をしてたんだ

 

Remember the night that we met up

Broke into me and taken everything left in my heart

So fragile is that air, it always keeps on revolving near and wide

Loneliness envelops deep in your eyes

 

envelope:覆い

 

英語版は「どこか儚い空気」どころか今にも壊れてしまいそうな印象。

airは語感のことがなければatmosphereの方が、と思いかけたが「様子」の意味もあるみたいですね。バッチリです。

 

いつだってチックタックと

鳴る世界で何度だってさ

触れる心無い言葉うるさい声に

涙が零れそうでも

ありきたりな喜びきっと

二人なら見つけられる

 

It's stuck in “tick-and-tocking” mode

Never refraining shamble, block of sound

Too many terrible noises around

And the voice ringing in me gets louder

With tears about to fall

I need to find me an average happy tiptoe

Locating, never tough when I'm with you

 

stuck:(pp.stick):突き刺す shamble:よろよろ歩く、よろめく mode:ここでは「音階」? block:障害? tiptoe:爪先 tough:困難

 

難しくなってきた。

もう名言は避けてふわっと解釈していくけど、「うるさい声」とは「僕」の内側で響くものだろうか。内憂外患な状況を音になぞらえて、しかし「君」といる時は気にならないのだと。

「ありきたりな喜び」はそうしたマイナスをゼロに戻したいという意味合いかな(ジョニィ・ジョースター

 

騒がしい日々に笑えない君に

思い付く限り眩しい明日を

明けない夜に落ちてゆく前に

僕の手を掴んでほら

 

忘れてしまいたくて閉じ込めた日々も

抱きしめた温もりで溶かすから

怖くないよいつか日が昇るまで

二人でいよう

 

Saw what got seen hid beneath, and louder nights keep beating

I'm going to you, and giving brighter shiny tomorrows

What can "night" for you mean, infinite? You could run with me

Place your hand in mine, you gotta stay, hold up

Want to leave it behind, dark cruel days, in deep, you may have hid before

I'm embracing you until more heat dissolve what is caught up

Sun will soon rise up into a day you're no more too afraid

Keep all of me in you

 

beneath:~の下に embrace:抱擁する

 

サビ。

これはもう"Saw what got seen hid beneath"=騒がしい日々に、って言いたかっただけであろう。字面だけ見ればむしろ騒がしいのは「夜」の方だ。

あえて解釈するならその「夜」の下に隠れて見えない明日=「君」の笑顔、とかか。

呼びかける場面はかなり情熱的。「は君にとって永遠のものか」「手をとって走り出すことができるはずだ」

そして"hold up"はもちろん「ほら」なのである。

 

次の段はだいたい同じ。「閉じ込めた日々」は暗く残酷なもの。

dissolveがまた出てきた。meltと似ているが、こちらは溶けたあと別の液体と混ざり合うニュアンスがあるとか。ここまでの流れを踏まえると、いろいろと後者よりウエットな感じ。

 

君にしか見えない

何かを見つめる君が嫌いだ

見惚れているかのような

恋するような

そんな顔が嫌いだ

 

Only perceiving through your eyes

I see nothing, I'll soon hate you, keep me out, I'm crying out

You're falling into deeper fascination, giving away your love

That expression has got me crying out

 

perceive:~を認める、知覚する fascination:魅力あるもの expression:あらわれ、しるし

 

その目を通してのみ見えるものに「君」は夢中のようだ。

「見惚れているかのような 恋するような」にあたる部分は非常に艶めかしさがあり、さっきからかなり色っぽい。

一方で「僕」には「君」しかいないような感じなので、そんな様子を見るのは堪える、というところだろう。わかるわかる(タメ口)

 

信じていたいけど信じれないこと

そんなのどうしたってきっと

これからだっていくつもあって

そのたんび怒って泣いていくの

それでもきっと

いつかはきっと

僕らはきっと

分かり合えるさ信じてるよ

 

She's gonna try to me, she's gonna lie

Got to force a belief and trust to keep on

Every time it happens, heap of attack, and now I'm back in

I got to cry, then who knows?

So we gotta keep on

If you gotta keep on

Then we're gonna keep on

One day, we will understand, I'm believing in you

 

forceは使役動詞? heap:積み重ね

 

一人称視点の葛藤。

「君」の態度は誠実だし「僕」も(強いて)信じたいが、どうしても疑いの心を拭い去ることができない。

 "So we gotta keep on"=それでも関係を続けなきゃいけない(もう「君」なしではいられない)

 "If you gotta keep on"=「君」にその目をやめる気がないのなら(やめるわけにはいかないのなら)

という流れでの"Then"には妥協・諦め・受容が混ざったような、それでいてどれとも異なるようなやりきれない気持ちが籠もっているように見える。日本語よりネガティブな感じ?

つくづく「きっと」を"keep on"と当てたのはうまいな。

 

もう嫌だって疲れたんだって

がむしゃらに差し伸べた僕の手を振り払う君

もう嫌だって疲れたよなんて

本当は僕も言いたいんだ

 

"No, wanna stop it, you got me tired of walking"

As I show my needs, I reach to get back on, still not fit in

You free my hand, then leave it

"No, wanna stop it, you got me tired of walking"

Never told you the truth, I'm feeling that inside

 

"As I show my needs"=望みをさらけ出すように つまり「いっしょにいてくれ」と気持ちの上でも手を伸ばした?

ここに限らず、物語の中のwalkには「現実に立ち向かう」とか「戦いを続ける」とかいろいろ読み取れるものがあって個人的にかなり好きな使い方。

 

 

ほらまたチックタックと

鳴る世界で何度だってさ

君の為に用意した言葉どれも届かない

「終わりにしたい」だなんてさ

釣られて言葉にした時

君は初めて笑った

 

Back for another "tick-and-tocking" mode

Never refraining shamble, block of sound

Killing, oh, too many words that I gathered around

Won't let me go to your mind

"I want it to be done" is what went out

It found a way to finally leak out of me

And for once, I could make you let out a smile

 

gather:かき集める

 

"Killing, oh, too many"=君のために と音を当てただろうからkillingについては触れません。ここはわからん。

"Won't let me go to your mind"は「届かない」というより「その気になれない」という感じか。喉元まで来てるけど口には出せなかった、的な。

doneはまためちゃくちゃ意味が多くどうとでも取れるので難しいところ。

結局口をついて出たのはさっき言いたかったことなんだなあ。

そして「君を笑わせることができた」と達成のニュアンスがあるかどうかもちょっと……私には判断が難しい。そんな追求するポイントでもないような気はする。

 

騒がしい日々に笑えなくなっていた

僕の目に映る君は綺麗だ

明けないに溢れた涙も

君の笑顔に溶けていく

 

Saw what got seen hid beneath, and louder nights are keeping me down

My new images of you, now, appear heavenly now

What can "night" for you mean when fallen seas of tears are gone

They dissolve into the peace inside of you

 

keep down:鎮める、抑える heavenly:素晴らしい peace:静けさ

「君」の笑顔の瞬間、「僕」の心では……な段。

出会いと同じくらい劇的で衝撃的だったのか、二回もnowで念押ししている。

 

そしてここまでで一番のポイントだと思われるのが、peaceの表現だ。

日本語では「笑顔」なのだが、笑った瞬間に時間が止まっているため話の流れでわかるやろということだろうか。

空いた一語分のスペースで「騒がしい夜」と「心乱れない様子」とを対比させつつ、じきに来る夜明けを予感させるのは妙手というほかない。

 

変わらない日々に泣いていた僕を

君は優しく終わりへと誘う

沈むように溶けてゆくように

染み付いた霧が晴れる

 

Calling to life, hit beneath, crying days in the eternal

Give me what I saw in you, oh, what an end to stop all

Seize a move, you're on me, falling and we were dissolving

See me to it, fog is leaving, bright air move

 

ラスサビへ駆け抜けていきたいんだけれども、ここも難しい。

音合わせの一環とは思うがhideからhitに変わった点に注意(注意しなくていいかもしれない)

"Calling to life"=人生への呼びかけ ってフレーズも、歌詞に関わってくる意味はないとしてもこれからの希望が感じられて私は好きだ。

 「終わりへと誘う」のところも英語は描写が少し詳しくなっている。さっき「僕」が示したとおり、望みを叶えてくれる くらいの意味合いに見える。

 訳から逸脱するけど、「染み付いた霧」は最初に纏っていた「儚い空気」に関連するものだろうか。

 

忘れてしまいたくて閉じ込めた日々に

差し伸べてくれた君の手を取る

涼しい風が空を泳ぐように今吹き抜けていく

繋いだ手を離さないでよ

 

二人今、夜に駆け出していく

 

Want to leave it behind, tucked all days away, forget, and hid beneath

Hand in hand, extend to me, that let me know beyond falls

Through the seas of beyond, so loud and blows you afloat in the sky

New wind moving into you

Tonight, don't ever lose sight of me and let go

You and me are running through the night in dark, I'll take you

 

tuck:押し込む、くるみ込む don't ever~:決して~しない(neverと同じ) lose sight of~:~を見失う

 

日本語の歌詞は同じだが1番のサビ:

"Want to leave it behind, dark cruel days, in deep, you may have hid before"

と少し変わっている。意味としてはたぶん、そんなに変わっては来ない。

fallsも悩ましい。「明けない夜に落ちてゆく前に」を踏まえたものか? であれば「夜を越えていく」といった安直な解釈ができて楽なのだが。

もうまったく関係ないけどHand in handといえば初音ミクの曲も好きです。

 

「泳ぐ」ということで、英語版は海の上を風に吹かれて飛ぶ様子が鮮やかに浮かぶ。

単に風が海を渡っていくのか「君」も「僕」も溶け合って風になったのか、でも溶ける曲だから後者かな。

だとすれば最後、You/meやrun/blowだけでなくtake/bringもその境をなくしてなんとなく曖昧な感じになっていくということで説明できる(できない)

 

おしまいに

事前の印象よりも抽象的な歌詞だった。

とても身の程知らずな試みではあるが、より曲を味わうための個人的なきっかけになったと思う。

 

日本語英語ともに、解釈が違うという指摘があれば甘んじて受けたい。

いじょうです。